今から数年前、スーパーに勤務していたタツオさん(当時34歳)は足のしびれと、首・肩の痛み、そしてかなり強い腰痛をかかえて来院なさいました。
でも、タツオさんの痛みは少し特殊で、筋肉の硬さもさることながら、弱い圧で指圧しただけでも強く痛みが出てしまう。そんな状況でした。何軒かの病院で診察もしてもらったが、その強い痛みの原因が分からず悩んだ末の来院でした。
他の治療院にも行ったんでしょう?と、お尋ねするとやはり何軒か行ってみたとおっしゃってました。私は、他の治療師がどういう判断をしたのか知りたくて「なんて言われました?」と聞いたところ、「こんなの治らないよ。」って言われました。と、少し寂しそうにおしゃいました。私はその時、その心ない治療師に怒りを覚えると同時に、この人をなんとか治してあげたいと強く思いました。そしてタツオさんにこう言いました。「俺なら治してあげられるから、いっしょに治そう!」それからタツオさんの治療が始まりました。
車を運転する時の振動だけでも、腰や脚に響いて痛みが出るような状態だったタツオさんを説得して、初めの一か月は週3回も通っていただきました。来院なさるだけでも大変そうでした。
タツオさんの施術はゆっくりとしか始められませんでした。なぜなら、指先で軽く押さえただけで、強い痛みを感じてしまう状態だったからです。それが、ほぼ体中で起きていました。でも、私はこのような症状の方の治し方を知っていましたので悩みながら施術することはありませんでした。いい師匠に師事して良かったな、と思いました。あとは彼自身が良くなるまで辛抱できるかです。
タツオさんは、私が感心するほど熱心に通って下さいました。そして自宅で行う体操もよくやってきて下さいました。良くなっていけるパターンです。痛みが少しずつ弱くなっていき、痛みの範囲も徐々に小さくなってきました。そうなって来ると不思議なもので、タツオさんの表情が明るくなり、声も少し大きくなってきました。初めて来院なさった頃は挨拶も無く、返事や受け答えもして下さらないことの方が多くて少し困ったタイプの方だったのに。体の状態が良くなると、内側のいい面が外側に出やすくなるんですね。
2か月目からは週2回に、3か月目の途中からは週1回の施術でよくなりました。もう、この段階になると良い変化が次の良い変化を生むという好循環の状態です。異常な痛みは、疲れが溜まった時だけ場所を限定して現れるようになり、それも1回の施術でほぼ無くなるというところまで変わってきました。「もう職場復帰してもよいのでは?」とお話しすると。「自分もそう思ってました。」とタツオさん。ほどなく会社に戻られました。
それからもタツオさんは月に1~2回はおいでになっていました。私が勧めたわけでは無くご本人の希望で定期的に来院なさっていました。疲労が溜まると少し症状が出ていたのです。でも、5年経ったある日「次の予約は、取らなくていいですよ。もうお体の様子でお電話いただければいいと思います。」タツオさんは少し驚いた様子。「もう、治っていると思います。長い間よく辛抱なさましたね。」難しい症状の方を治しきって送り出す時が、最も感動的で嬉しい瞬間です。治療師冥利に尽きます。
あれからタツオさんは何か月かおきに数回お見えになりましたが、ここ最近はすっかりご無沙汰。便りが無いのはいい便りと思っています。良かったですね~。